妊娠カレンダー 小川洋子 (1994)

ブックオッフいっき買いの中の1冊。前に豊崎社長がラジオでブックレビューをやっているときに、小川洋子さんの『ミーナの行進』を大絶賛していて、それから小川さんの作品は読んでみたいなと思っていた。やっと読めた。3年くらいかかってるな。

本を読み始めてすぐに思ったのは、自分が妊娠する前にこの本を読んでおけばきっと事前に知っておいたほうがいい妊婦の気持ちや知識が得られるだろうな、ということ。妊娠体験記をコミカルに描いたものなのかと思ったのだけれど、それはまったく違った。まったくではないかな、コミカルな部分もあった。でもいちばん大きくドンとこの作品を支えているのは、妹の素直な人間として妊婦を見る目。

お風呂場でさっき読み終わったんだけど、ふと私も「子どもができること」について考えてしまった。果たしてそれはいいことなのか悪いことなのか?そんなのはその人の気持ちや環境によって違うもので、一概にはなんとも言えないということ。そしてそれが、身内であっても自分ではない誰かの出来事である以上、やはり心のどこか奥底では、100%喜んでいるだけではない、それぞれの感情や思いがあるものでしょう。それは当り前のこと。でも、実生活の中や人間関係の現場でそれを表に出すことって、ほぼタブーに近い感覚があるよね。人間って恐いなと思うけど、でもそれってやっぱり誰でもそういうところはあるんだと思うな。私も実際そうだし。自分のこと本当に腹黒いなって思う。

でもそんなタブーに近い人間の生身の感情を引っ張り出して、作品として描くというところが小説の面白さ、すごさなんだろうなって思った。んー、うまく言えないけれど、ひとつ前に読んだ『秘密の花園』よりは、いいなと思った。まず、『妊娠カレンダー』というくくりで、ひとつのテーマを切り出して、そこに人間の複雑でリアルな気持ちや出来事をとじこめるって、すごい才能とセンスだと思う。また、描写がすごく細かくて、文学的でいいいなとおもった。文学的ってよくわからないけど、ひとつのものごとやシーンを描くときに、普段人が気がつかないような空間の動きや、ニオイ、音、人の行動などを必要以上に丁寧に流れのように記すことだと私は思っている。妹がスーパーで生クリームの試食販売をしているシーンの描写が特にいいなと思った。私はこんな風にスーパーを見れないなと。でも見てみたいなと思った。私の頭の中にスーパーを思い浮かべたらどんな描写ができるかな。なぁんて、でもそんな遊びも面白いかも。文学的描写ごっこみたいな(笑)。今度車の中でやってみよう。

頭に残ったこと:グレープフルーツのジャム、妊婦の青白いつま先やほほの肌の色、つわりでニオイの我慢ならない姉のために外に炊飯器とござを持ち出して、夜の空を見ながら夕食を食べる光景。

『妊娠カレンダー』の文庫本には本作とほかに2冊の短編が入っている。ほかの作品は読んでいない。 他の作品も読んでしまうと、『妊娠カレンダー』の感想が薄れてしまうなと思って。

私もなんかカレンダー書いてみようかと思った。今の私にできるのは『同棲カレンダー』だな。ハハハ。