ノーティアーズ 渡辺由佳里 著(2001)
第7回小説新潮長編新人賞受賞。
『神たちの誤算』ではアメリカの医療現場(特に出産に関する宗教的、文化的な問題にも専門的に触れている。)を舞台に活躍する日本人女性を描いていたけれど、本書は好景気真っ只中のアメリカで最も熱いインターネットビジネス業界で働く一流ビジネスウーマンが主人公。もちろん日本人。でも、日系ジャパニーズだから、生まれも育ちもアメリカの主人公なんだけれど、著者は日本で育った日本人なのに、そのネイティブの感覚がもろに伝わってくる感性がすごく好きです。日本語の横にルビがふってあるかと思うと、その言葉の表現を英語にしたものが振り仮名ふってあるんだよね。なんか、それがすごく英語で文章を読んでいるみたいな感覚にさせてくれるのが不思議。
仕事ばかりしていて、結婚するタイミングを見失ってしまった主人公ムラカミ・ジューン。ハーバード大学を出て、それなりの仕事をしているけれど、ひっきりなしに声がかかるヘッドハンティングやら、新しい事業への参加だとか、結婚は愛じゃなくて利益を生み出す契約なんだとか、ウォールストリートのビジネスパーソンライクなストーリーもなかなか面白いです。後半では、合併、投資、売却といった大きなビジネスにもチャレンジしてみたりして、ちょっと小説でのぞく世界としては面白かったわ。渡辺さんはまた本を出さないのかな。今のところこの2冊しか出ていないみたい……。残念。