エンドマークから始まる 片岡義男 恋愛短編セレクション 夏(2001)
こんなにさらりとした恋愛小説があったんだ。ひとつひとつの短編は主人公もシチュエーションも全部違うけど、でもなにか一環した女性像があるんだね。これは絶対に女性の作家には書けない気がする。片岡さんからみた理想の、こうあってほしいステキな女性像が手に取るように分かる。といっても、とてもあっさりと淡白な表現でスルスルっとストーリーは進んでいくので、細かい描写は全然ないんだけど、そのテンポと何もないような一文の連続がステキなんだよね。私が初めて読んだ本書は「夏」がテーマになっているだけあって、今の時期読むにはとても心地がよかったわ〜。
 キッチンのことは「キチン」、女性が運転する車は「クーペ」(車とかドライブのシーンがよく出てくる)、登場する女性は(もちろん)飾り気はないけれどでも絶対に「美人」が前提、そしてムダのない会話、理由もよく分からないのに決意がコロリと変わる女の人の心……。んー、今まで読んだ小説にもこれらの要素はもちろん見かけるんだけど、すべての短編で一環しているところがすごいよね。それから私がすごくいいなと思ったのは、片岡さんが書く恋愛関係はどれも絶対にしつこくないこと!ぜんぜんベタベタしないし、熱くもならないし、落ち着いていて、でも幸福感のある空気、これがいいよー。ひとつめの短編「エンドマークから始める」では、彼氏と同棲している女性の部屋の描写があるんだけど(この彼氏は物語には全然出てこない)、同じマンションの同じ部屋に住んでいるのに、それぞれの部屋は別なの。そしてそれが当たり前のように書かれているのが、なんかカッコよかったなー。
 どの短編もすごくすごく好きだけど、一番は「一日じゅう空を見ていた」です。はぁ、もう、この感じがすごくイイ。