夢見通りの人々 (1989)  宮本 輝
宮本輝さんの本を読んでみようと思ったのは、親友に進められたから。競馬の話とか結構面白いよーと聞いていたのだけど(おそらく『優駿』だと思う。)、図書館にソレに該当する本がなかったので1冊ものでとりあえず借りてみた。そしたらね、またね、商店街のお話だったのだよ。しかも私の身近にある商店街の雰囲気ととても似ているので、とても親しみがもてました。宮本さんは関西出身の方のようなのでこの商店街も関西にあるのよね、そういった意味で少し気質が違うような点もあるけれど、でも基本的には同じ。多くの人はおそらく、これを「昔はこうだったよねー」といったニュアンスで受け止めるのかもしれないけれど、そんな事ない。こうやって各個人の商売の存続を気にしつつ、近所との商売交流にも気を使いつつ、噂話も適当に楽しみながら、なんだかんだいって切っても離せない関係、それだけで毎日を過ごしている人っているいる!主人公、独り者の青年、里見春太。彼は田舎から状況してこの夢見通りで1人暮らしをしているんだけど、外部からやってきたって関係ない。そこに住んでしまえばもうりっぱな商店街の一部になるんだよ。女の悩み、男の苦しみ、親の嘆き、勝手な子供、なーんて適当に並べてみたけどこんな事がたくさんあって、決してどれもがハッピーエンドではないけれど、それでもこの商店街の中の一部として捉えることによって何か温まるものになっていくんだよねー。深い感動とか、すごい感銘とかそういったものはないけれど、でもここで描かれている人の心情や状況ってとても分かりやすいし、一つの小説なのにこれだけたくさんの(商店街の住人それぞれの短編になっている)ストーリーが盛り込まれていて密度高だと思いました。私ややくざ兄弟肉屋の竜一にまつわるエピソードが結構好きです。体から刺青取ったら結婚してもいいっていう女性に出会い、彼女のために本気でそれを実行しようとするんだよね。ここに反して波の音だけ録音されたカセットテープを一生懸命探して、その女性にプレゼントした春太は失恋してしまう。このうまく行きそうでハッピーエンドにならない所が結構いいのだよー。そして今回で宮本さんの小説は2冊目なんだけど(以前、「彗星物語」を読んだ)、今回読んでみて気がついたのは、彼は細かい視点で人の動作を描きそこから心情を浮かばせる描写が非常にうまいと思いました。村上春樹さんとかは、あまり難しい言葉を使わないし、たとえ難しい言葉を使って文章を書いても表現している人の動作や心情ってそんなに理解は難しくないと思う。宮本さんも決して難しい言葉を使うわけではないんだけれど、「人の観察がうまい」って言うのかなー、なんて言っていいのか分からなくなってきちゃったけど、「あ、分かる分かるその気持ち」っていう心情が登場人物の行動とかから自然に伝わってくるんだよね。私が妙に賛同してしまったのはおばあちゃんの入れ歯に苺の粒がつまっちゃうやつね。ハハーン、分かるそれ!って感じでした。さあて、明日は何読もうかなー。楽しみだなー。