イッツ・オンリー・トーク (2004)
絲山 秋子

絲山さんが、文學界新人賞を受賞したデビュー作。私にとっては2冊目。1冊目の『袋小路の男』はなんとなくサラーっと読んでしまい、「ふーん」といったトーンだったんだけど、こちらは同じ系統のトーンの中でももっと面白かった。優子(主人公)は「人生をあきらめた女、先の見えない孤独な女」。昔はバリバリ仕事をしていたのだけれど、精神を煩わせてしまい、今は自分のペースで毎日を生きている。しかしながら、その生活にはさまざまなオトコが登場するんだわ。そのオトコ達と優子のやりとり、心の浮き沈み、オンナとしての欲望とプライドを使ったかけひきの感じが面白い。孤独で、精神病で、決して前向きなオンナではないんだけれど、異性と関係を持つことは生活に取り入れていて、しかもその関係に対してサッパリと割り切った価値観(これがかっこよく見える)があって、さっぱりしているからなんでもうまく整理できちゃいそうな性格なんだけど、やっぱりいろいろと心の中では整理がつかなくて、ある日は大学時代に仲の良かった男友達と会い、引っ越した先の蒲田ではまた同じく大学時代の友達で議員に立候補した優しい同級生に会い(そしてちょっと恋をし)、ある日はネットで知り合った同じ病気の男と飲み、そうかと思ったら田舎にいる自殺未遂歴のあるニートなイトコを東京に呼び居候させてしまい、で、そんな中で一番優子が会っていて安心するのは痴漢プロのおじさん。性関係もあるのに愛人とはよばず、あくまで痴漢のおじさん。このおじさんに痴漢されることが満たされることになっているというのが面白い。ココがね、微妙なところなんだけどね、でもこの痴漢のおじさんの役割は「さすが」とおもった。そしてそういう人間として隠せない正直な欲望がいろいろとみえるのが面白いんだよね。でも、これってやっぱり女性が共感する話だとおもうんだけど、私は男の子の友人からこれを借りたんだよね。彼はどう思ったんだろうか。聞いてみないと。ただ、「いや、結構いいよね」くらいしか言わないのかしら。細かくどんな風に思ったか聞いてみたいです。
もう一つ『第七障害』という乗馬をする女性の話もよかったな。群馬っていいよね。山に名前があるのっていいね、私もその帰ってきた「場所」に「ただいま」を言えるのって気持ちがいいと思う。榛名っていう名前なんてとくにいいよね、「ただいま、榛名」ってね。それから東京で再会した、年下の男の子がお菓子作りが好きっていうエピソードもよかったな。人が喜んで買ってくれる感じが好きなんだってさ。一番最後に二人で行ったのは野反湖(のぞりこ)ね。私もチェックしておこう。読んでて行ってみたくなったよ。
そして最後の「あとがき」を一般の書店の販売員の人が書いているのがとても面白かったの。こんなの初めて見たよ。でも絲山さんの大ファンみたいで、私みたいな読者と同じ視線で、友達と本の感想を一緒におしゃべりしているような解説がよかったです。こういうあとがきもいいね。もっと読んでみたいーー!