彼らに元気が出る理由(1990) 片岡義男
 キザな話だ、ともいえるけれど、そんなことはどうでもいいくらい「かっこいい素敵」な小説だと思う。1時間ほど前に読み終わった私にはまだ、最後の引っ越しから京都に旅行に行き、それからあたらしい部屋(ここはあえて、家ではなく、部屋)に帰る4日間が強烈に理想の過ごしかたとして残っている。
 ストーリーは男女の離婚からはじまる。それも「離婚」という響きからはほど遠くサラッとしていて、不思議な体験だった。こんな男女もいるのかと。小説の中の話だけれども、現実にこんなふうに人と関わっていくこともできるのかと思うと、複雑な気持ちがないでもないけれど、理想的なように見えてしまう。そこが小説のマジックでもあるんだろうけど。
 片岡さんの小説に出てくる男女の会話のひとことひとことは非常に短い。
「そうね」「いいわ」「よく見える」「いい写真だわ」。

「君に贈る花」「出てこいよ。花を渡したい。そして一杯でいいから酒を飲もう」

お酒の名前も私はよく聞いたことがないものが出てくる。
バカールディ・アンド・アイス。そして「いくつかの氷の上に、ダーク・ラムを適当に」……するらしい。
車の名称は「クーペ」、台所は「キチン」、この単語だけでも片岡さんの独特な世界に入れそう。登場する女性はすべて素敵な女性、というところが不思議な感じもするけれど、そこはつっこんじゃだめよ。私も読み終わった今、冷静に考えるといろいろわかるんだけど、でも小説の世界としては本当に素敵だわ。最後にある「あとがきの代わりに」を読んで、本の表紙を見て、さらに胸が高まって、元気な要素をもらって、素敵な気持ちのまま読み終えることができました。